投稿コーナー2

141131
とりあえずこれから復活させてみました

旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/03/25 (Sun) 11:04:59

旧投稿コーナーの「中学生男子」の三矢くんがあまりにも好きすぎて、続きがどうしても読みたいあまり自分で書いてみてしまいました!

Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/03/25 (Sun) 11:08:22

「兄ちゃん!兄ちゃんったら!」

三矢雅之が弟の翔太に揺さぶられて起きた時、リビングの方から兄弟の子供部屋へ、電話のベルと、母親の「まあ、霧島先生!」という声が耳に入ってきた。

まずい、やっぱり家に電話がかかってきた、お母さんに虫歯の放置がバレてしまう!そんな不安に顔を曇らせていると、翔太が怪訝そうに

「ねえ兄ちゃん、なんで床に寝てんの?ってか、いつの間に帰ってきたの?」
 
  と訊く。

「……翔太には関係のないことだよ」

そう、この明るい笑顔と白い歯がチャームポイントの健康優良児には関係のないことなんだ!そんな弟への嫉妬心を覗かせて雅之はぶっきらぼうに返事をする。

玄関を出て独り悩みに耽っていたはいいものの、夜九時近くなって中学生が家の外にいるわけにもいかない。いつまでも戻らなければ教育熱心の母はひどく怒るだろう。仕方なく子供部屋に戻った雅之は虫歯の痛みとそれに起因する頭痛に襲われ子供部屋のドアの前でうずくまり、そのまま気が遠くなって失神するように眠ってしまっていた。そして夢の中で小学生時代の辛い思い出を追体験していたのだ。

 先ほどまでリビングでテレビを見ていた翔太は、子供部屋に戻ると兄が倒れこみ譫言を繰り返す様に驚いて、思わず兄の体を揺さぶっていた。


「なんつーか、痛いだの怖いだの、おばあちゃんだの寝言言って暴れて……あ、涙出てるよ、兄ちゃん怖い夢見たんだねエ」

 痛みと恐怖で涙に濡れた雅之の顔を見て、翔太は嘲るように言う。

「ホント兄ちゃんはヘタレなんだから!何の夢見てたのさ?」

 眠っていたのはほんの数分間のはずなのに、あれだけ鮮明で怖い夢をみて、それで泣いてしまうなんて、『ヘタレ』という弟の言葉に反論できず、雅之は俯く。内向的な兄を嘲り笑う弟の口から覗く白くて美しく並んだ歯は、雅之の劣等感をきつく刺激した。

 三矢家の教育方針は些か古風で、父親が『歯を見せてニタニタ笑うなんてみっともない!』とよく言っていた。幸か不幸かその教育のおかげで雅之の虫歯は親に露見せずに済んだ。しかし翔太はそんな父親の言いつけなぞ無視してご自慢の白い歯を思いきり見せて笑う。見せつけているんじゃなかろうか、と雅之が嫌な顔をしたその時、

「雅之、ちょっと来なさい」

と、案の定母親の声が響いた。怒られる!と、震えながらリビングへ戻ると、雅之の予想とは裏腹に母親は静かに俯いていた。

「……あなた虫歯が沢山あるって、検診、わざと受けてないんだって、校医の先生が心配してるって霧島先生から連絡があって……」

母親は両手で顔を覆い、溜息をつく。

「……なんで言ってくれなかったの?」

 母親の声が、いつになく優しく穏やかで、雅之は複雑な気分になる。

「小学校の時……新潟でのことお母さんが怒ったから、言いたくなかったの?」

 母親の目にじんわりと涙が浮かんだ。雅之は罪悪感に駆られる。

「もう何年も放っておいてるって、痛かったでしょう?ごめんね……」

 そっと頭をなでる母親に、もう中三なのにと赤面してしまう雅之は、取り敢えずヒステリックに怒鳴られることだけは避けられたと少々安堵していた。

 祖父母宅近くで受けた治療はとても辛かったし、その後の母親の反応もまた辛かった。

『大人の歯は虫歯にしないって、あれほど言ったのに!』

 そう言って、ただでさえ治療中で痛い左頬を思いきりビンタしたのだ。あの日母は義母からの連絡を受け夜行に乗り新潟の義実家に駆け付けた。そこで歯科医に

『ひどい虫歯ですよ、神経が死に始めていました。取り敢えず神経を抜いて、薬を詰めてあります。紹介状を書きますから、東京に帰ったらそちらの歯科で診てもらってください……六歳臼歯は大事な歯なんですがねえ、きっとこの子歯並びも悪くなりますよ、可哀想に!お母さん、あんた何やってるの……』

 と、叱責紛いの説明を受け激昂したのだ。それから母親は自暴自棄になり、二人の息子の歯の状態を気にしなくなってしまった。その代わりに学業成績にはより一層厳しくなっていったのだった。

「あーんしてごらん」

と、幼少期の仕上げ磨きを思い出す言い方をして母は雅之の頬に手をかける。先ほどの悪夢を思い出しびくりと肩を震わせるも、夕暮れの検診で思いきり泣いたのが良かったのか、意外にもすんなりと口を開くことができた。

『ずっと抱え込んでるのも、辛かったろ?』

 という小野坂歯科医の声が、雅之の脳内でリフレインする。吹っ切れるって、こういうことなのかな?と雅之は思う。

「嘘……こんなに……?」

 母親は雅之の口腔内の無残な様子に息をのむ。欠けてしまった前歯に、大きく穴の開いた奥歯。そして小学校時代に入れたクラウン。母は

「あの時怒っちゃって、ごめんね……」

と呟く。丁度リビングに入ってきた翔太が、

「うわッ!兄ちゃんどうしたのそれ!」

 と叫ぶ。
「放課後、保健室にいたの、それで……?」

 翔太の反応に、雅之は少し違和感を覚える。この弟なら、きっと汚いだの臭そうだのと、指をさして嘲笑しそうだと考えていたからだ。

「ああ、そういや兄ちゃん、小学校の時も虫歯痛いって、ばあちゃんちで泣いたもんね、うん……俺にゃあ確かに関係ないね」

 そう言ってそそくさと子供部屋に戻ろうとする翔太の態度を、雅之は見逃さなかった。

―翔太、まさか……

「取り敢えず、明日は学校をお休みして、歯医者さんに行きましょう。校医の小野坂先生の診療所の場所教えてもらったから……。もう寝なさい」
 
 そう優しく母が言ったとき、雅之は弟の弱みを握ったような気持ちになった。

Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/03/25 (Sun) 11:10:24

「……兄ちゃん、あのね」

深夜の子供部屋で二段ベッドの下段から、雅之の寝ている上段に翔太の声が届く。

「その……」

 言いづらそうにしている翔太に、雅之は少々得意げな口調で

「翔太も虫歯?」

 と言い放った。

「ん……検診でさ、生えたばっかりの一番奥の歯が四本ともみんな虫歯だって言われた……鏡じゃよく見えないから気づかなかったんだ。ちょっと痛いなって、思ってはいたけど、生えてくる痛みだと思って、気にしてなかった。……部活帰りにコーラ買って飲んでたからかなあ?」

 翔太はいつになく弱弱しく言った。確かに虫歯になったことのなかった翔太が虫歯の兆候に早く気付くのは無理だろう。それに十二歳臼歯が生えるときは親知らず程ではないにしろ痛みや腫れを伴うことは珍しくない。周りの友達にも奥歯が生えてきて痛いと言っている者は少なくなかったろう。虫歯経験値がゼロに近い翔太が、歯の萌出の痛みと虫歯の痛みを区別できるわけがなかった。

「そして、歯磨きがなってないって、歯茎が少し悪いって言われて、このままじゃシソーノーローになるよって……」

 翔太は泣きそうだ。中学生になったばかりでそれはつらいだろうなと雅之は弟の心中を察する。おそらく、虫歯と無縁だった翔太は油断して雑な歯磨きをしていたのだろう。虫歯が痛むながらも歯磨きを頑張っていた雅之は、歯茎については言及されなかった。無論虫歯の炎症が原因で腫れた箇所もあるのだが、基本的に雅之の歯茎の方は健康で、清潔を保った甲斐あってか虫歯特有の口臭もあまりしなかった。それぞれ悩みがあるんだなと、雅之は弟への見方を少し改めた。

「シソーノーローって、息がすごく臭くなっちゃうんだろ?そんなのやだ。それに虫歯がもっと痛くなっちゃうのもやだ。でも、昔兄ちゃんが虫歯の治療怖がって、家に帰っても泣いてたから、怖くて……」

しょんぼりしている弟に

「そっか、ごめん」

と雅之は返す。

「……お母さんには言わないで。俺の決心ついたら、ちゃんとお母さんに謝って、治療しに行くから」

 雅之は、「うん、言わないよ」と優しく答えた。どの道学期末には治療勧告書が担任から渡されるだろうし、何年も虫歯を放置した自分に、弟を責める資格はない。

「……でも、虫歯って最悪死ぬんだよ。新選組の永倉新八は大正時代まで長生きしたけど結局虫歯のせいで敗血症って病気になって死んじゃったらしい」

 夕暮れ時、自分はきっと虫歯で死ぬと悲観していた三矢兄弟の兄は、過去に歴史小説で読んだ知識を弟にそっと教授した。

「三矢くん、よく来たね」

 翌朝の小野坂デンタルオフィスにて、小野坂院長は三矢雅之の早々の来院を暖かく迎えた。

Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/03/25 (Sun) 11:12:08

三矢くんの虫歯がちゃんと治るハッピーエンド、書きたいです。

Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/03/26 (Mon) 17:20:45

―あんなに怖がっていたのに、ちゃんと治療に来てくれて本当に良かった。

 小野坂はにこやかに雅之に話しかける。来院できたとは言え、雅之の歯科への恐怖心は消え去ってはおらず、チェアユニットに腰掛けることは辛うじて出来ているものの、目線は不安定で手足も震えている。

「……そ、その、やっぱり、いつまでも痛いのは嫌だし、ちゃんと綺麗な歯に、なりたい、から……」

そう吃りながらぼそぼそと言う雅之の顔は真っ青で、冷や汗が滲んでいる。雅之の母親は、

「先生、どうもすみません。この子が小さいころ私があんまり歯に五月蠅く言ったのが良くなかったみたいで……」

と、申し訳なさそうに言う。

―子供の歯に無関心な母親と思いきや、実態は正反対か。

小野坂は、それもよくあるケースだなと納得する。実際、いわゆる教育ママが子供の歯磨きを熱心にするあまり歯磨きが嫌いになってしまったり、厳しくお菓子を禁止したため隠れて大量に食べるようになったり、それで虫歯になったことで人格否定をされてしまったりと、親の歯科衛生への意識の高さが逆に仇となってしまった幼い患者も小野坂は多く見てきたし、他でもない小野坂自身がそのケースで酷い虫歯をつくり、辛い思いをしたことが歯科医を目指すきっかけだった。

「三矢くん、椅子倒すね。お口開けられるかな?お母さんに治療の説明をしたいんだけど」

小野坂は友好的に、優しく問いかける。

「……開けて、みます……」

雅之はゆっくりと、口を開き始めた。背もたれが倒れ、小さく開いた雅之の震える唇を小野坂が指でそっと開いてゆく。雅之は肩をびくつかせ、ひじ掛けをぎゅっと握り、瞼もしっかりと閉じた。

「大丈夫、怖くないよ」

小野坂は衛生士に指示して雅之の目にタオルで目隠しをさせる。

「そう、もうちょっと開けてね。じゃ、お母さんちょっと見てください」

雅之の体は今も小刻みに震えているが、なんとか診察できる程度に口を開けることができた。母もそっと、息子の口を覗き込む。カン!とライトのスイッチの音がして、小野坂はデンタルミラーで歯を指して雅之の口腔状態を母に説明し始めた。

「一番ひどいのは、この右の奥から二番目の歯ですね。三矢くん、これ痛むでしょ?」

「あえ(はい)……」

「この歯の後ろと前の奥歯も少し進んだ虫歯です。この一番前の奥歯は軽いですね。右下の糸切り歯から左の二番目の奥歯はどうもないとは思いますが、後でレントゲンを撮って中から悪くなっていないか調べますね。左の銀歯の後ろの歯も軽いですが虫歯です。この銀歯入れたのは小学校の時ですよね?」

小野坂はこの三矢雅之という少年を気にし始めたきっかけとなった6番のクラウンを指した。

「ええ、小学校低学年の春休みだったでしょうか、主人の実家へお泊りに行っていたとき虫歯が痛くて泣き出したと連絡があったんです。急患で近くの歯医者さんに診て頂いたらしいのですが……」

その言葉に、雅之は肩をガクガクと震わせ始め、目隠しのタオルが涙でじわじわと濡れてきていた。

あの日、タオルとネットで拘束された雅之は、旧式の堅くて冷たい開口器で口をこじ開けられ、乱暴に麻酔の注射を打たれたかと思うとまだ麻酔が完全に効いていないのに歯を削られたのだった

『あ!ア~ッ‼ああへ、あえ(痛い、痛い)!』

おぞましいタービンの音と、幼い雅之の泣き声が薄暗い診察室に響いていた。初老の歯科医が歯を削っている間、雅之をタオルとネットで拘束した若い歯科医は泣きわめく雅之に、

『君がいけないんだよ、どうせ甘いお菓子ばかり食べてろくに歯磨きしなかったんだろう?小さいうちに大人の歯をこんなにするなんて、悪い子だ!こんなになるまで放っておくなんて、君のお母さんも悪いお母さんだな!』

ときつく怒鳴りつけた。祖母が傍にいた待合室での優しかった態度が嘘のようだった。

―違うもん……ちゃんと歯磨きしてたしお菓子だってお母さんはほんの少ししかくれないし、僕にも翔ちゃんにも大人の歯は虫歯にしちゃダメって、言ってたもん……。

雅之は自分が悪い子呼ばわりされるのも、母が悪いお母さん呼ばわりされるのも辛かった。

『ンあァ~!!!』

タービンの音が止むと、次はクレンザーが歯根に挿入され、棘が刺さるような鋭い痛みが雅之の脳天を貫いた。

『八つでもう永久歯を抜髄か、本当、どんな教育受けてるんだか!』

初老の歯科医が吐き捨てるように言った。抜髄後、リーマーやファイルで根管を清掃している間中、雅之の涙と絶叫は止まらなかった。あまりに炎症が酷かったためか、麻酔はいつまで経っても効きが悪いままだった。

「……ふぇぇ……」

恐怖の記憶が蘇り、雅之の喉から涙声が漏れ出した。

「大丈夫?もしかしてこの歯を治療したときに乱暴な治療をされちゃったのかな?」

小野坂は心配そうに訊く。

「……ひっく……タオルで縛られて、痛い歯を……ほじくられてッ……」

恐怖心に合わせて、虫歯の痛みも激しくなってきた雅之は、中学生とは思えない泣き声を上げ始めた。

「そっか、怖かったね。大丈夫だよ、ここではそういうことはしないからね……。お母さん、歯科を受診したのはそれが初めてですか?それとも、もっと小さいころに治療を受けていましたか?」

母親は

「ええ、二つか三つの頃に、歯磨きをしていたら虫歯を見つけて、治療させたのですが、最初は泣かなかったのに、何回目かで泣いて暴れて、治療したくてもできなくなってしまって……」

「その時は体を縛ったりされましたか?」

「ええ、幼稚園くらいまではそうするものじゃないんですか?幼児にはこうするものだと説明されました。私も子供の時そうやって治療されましたし……」

小野坂は不憫そうな表情で、

「その幼児期の虫歯は、ひどく痛むようなものでしたか?」

と深刻そうに尋ねる。

「いいえ、少し茶色い穴が開いた程度で、そこまで酷くはなかったと思います。小さいときですし痛かったら泣いて知らせるでしょうけど、私が歯磨きをしてやっていて気付いたわけで……」

小野坂はため息をついた。

「なるほど、不必要な拘束を伴う治療を何度も受けてのトラウマだったと……」

小野坂は哀しそうな声で言う。

「確かに幼児を拘束して治療することはありますよ、でもそれはあまりに重症で緊急性を伴う場合に仕方なくするものなんです!……僕も子供のころそうやって治療されたことがありますけどね、昔はそういう診療所も少なくなかったですが、あれは良くありませんよ。軽い虫歯ならまずは進行止めの薬で済ませたり、歯磨き指導で慣らしてから治療します。まして小学校に上がってからなら、よく言い聞かせれば縛る必要はないでしょう。……三矢くん、大丈夫だからね。ここじゃそういうこと、しないからね」

小野坂は励ますように、雅之に言った。

Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/03/30 (Fri) 23:29:55

「この銀歯の下も、悪くなってないかレントゲンでチェックしましょう。この大きい穴の空いた右の上と下の六歳臼歯は神経を抜くことになるだろうけれど、なるべく痛くないように努めるから。他の虫歯は、ご存知のように削って銀やプラスチックで埋めていって……じゃあ、前の歯の説明するけど大丈夫かな?」

「……はい」

 雅之は嗚咽を漏らしてはいたが、小野坂を信頼し始めたのか口を先ほどよりも大きく開けた。

「一番前の歯が欠けちゃってるところは、何とかプラスチックで修復できるかな。ただ二番目はもしかしたら差し歯にするかもしれない。差し歯といってもお母さんや僕が子供のころあったような差し込むやつじゃなくて、ちゃんと土台を作って被せるものだからあまり心配いらないよ、保険のやつでも今は見た目もそう悪くない。……八重歯の人ってどうしても二番目の前歯、虫歯の進みが早いんだよなあ」

 そう小野坂が言うと、母は申し訳なさそうに、

「歯並びが悪いのは知ってたんですけどね、この子歯医者さん怖がるし、八重歯に気付いたころは丁度主人が病気で休職していたものだからお金のかかることは控えていたし、八重歯って見た目が可愛いから……無愛想なこの子に愛嬌が出るからいいかなってそのままにしちゃってたんです、やっぱり良くなかったですね……」

 と言った。小野坂は

「他の患者さんなら早めに矯正することを勧めますが、彼の場合はやめておいたほうがいいですね。ほら、虫歯になってない歯でも、虫歯の出来始めみたいな白く濁ったところがあるでしょう?エナメル質の形成不全です。普通より弱い歯だから矯正装置を着けるとエナメル質が傷んで、装置に汚れが付着すればあっという間に虫歯になってしまいます。だからかえって良くない。」

 大丈夫ですよお母さん。と励ますように返答した。

「重なってるところはフロスやワンタフトブラシを上手に使ってケアしていこう。でも三矢くんだいたい綺麗に歯磨きできてるよ。痛くて磨きづらいところもあるだろうにここまで綺麗にできてるんだから、三矢くんなりに歯を大事にしてたんだよな、わかるよ」

 小野坂の言葉に、雅之は救われたような心持になった。

 幼いころの心的外傷による歯科恐怖症のあまり歯科検診のボイコットという暴挙に出ていた彼であるが、同時に誰より虫歯の恐ろしさを知っている。

 小野坂の言う通り、雅之は雅之なりに毎日朝昼晩と、痛みと戦いつつ歯を磨いて、虫歯を増やさぬよう気遣っていたことは紛れもない事実だ。

「作ってしまった虫歯は仕方ないから、しっかり治して、それから再発させないよう頑張らなくちゃな」

 労うように小野坂が言うと、

「レントゲン撮ろうか、大丈夫?立てるかい?」

と、衛生士に雅之をレントゲン室へ案内させた。

「……ところでお母さん、一年生の三矢翔太くんは弟さんかな?」

 雅之がレントゲン室に行くと小野坂は雅之の母親に訊く

「ええ、そうですが」

小野坂はため息交じりに、

「彼は歯の質も歯並びもすごく良いんですが、歯磨きが殆ど出来ていなくってねえ、あれで虫歯四本で済むのだから相当丈夫な歯なんですけど、まだ中一なのに歯周病の気があって心配なんですよね、お母さん気を付けてあげてください」

 小野坂の言葉に、母は蒼褪めた。

Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/04/12 (Thu) 15:17:25

「三矢くんは、体調が悪くて病院に行くそうだから、お休みです」

朝の中学校の教室で、担任の霧島はホームルームの出欠を取りながら言った。検診で泣いてしまう程歯科医を恐れていた三矢雅之。そんな彼―正確には彼の口腔状態―に興奮した霧島は、建前としては教師としての生徒の健康を心配する一心で、本音ではその生徒が虫歯を痛がる姿を想像しては興奮する邪心から、彼の母親に電話を掛けた。

実際、小野坂歯科医から早めに親御さんへ連絡してほしいと言われていたし、担任として彼女の行為は自然であろう。

『叱らないであげてくださいね、雅之くんも悩んでいたみたいですし、難しい年頃ですから……』

そんな言葉を、電話の向こうの彼の母親に向けて、痛がり泣き叫ぶ少年の姿を想像しながらかけていた。

「ミッチーまた休みかよ、おとといも休んだのに。」

ちぇ、と三矢と比較的仲の良いらしい男子生徒・高橋が言う。

「しょうがないわよ、三矢くんて体弱そうだし」

その隣の席の女子生徒・鳥海も言う。昨日三矢が帰った後に霧島が知ったのは、三矢は『無口でクールなミステリアスボーイ』として所謂文化系の女子に人気があるらしいということだ。

件の歯科検診の後、美術教師の島本が『三矢くん大丈夫ですか?あんなに泣いて……』と霧島に声をかけてきた。

三矢は美術部に所属しており、島本は三矢のことを気に入っているらしい。一年生の時には三矢の担任でもあったとのことで、新しく担任になった霧島に、いい機会だからと三矢について教えてくれた。

『ちょっと暗いけどホントにいい子で、結構モテるのよ、三矢くん』

大人しくて成績は良くも悪くもなく、何ひとつ取り柄のない生徒と思いきや、美術部では中々の良作を生み出しており(写実的過ぎて中学生らしくないと、コンクールではいつも落とされてしまうのだそうだ)、内向的な性格も『クールで知的で、大人っぽい』と女子部員に評価されているようだった。

―そのクールな雰囲気が、お口の中の大量の虫歯のせいかもしれないなんて、当の女の子たちは知らないでしょうね。

霧島が、『自分は三矢の口腔内の秘密を知っている』という優越感に浸っていると、

「ミッチー、病院ってもしかして歯医者かな?だってアイツ幼稚園の時のアダ名、『虫歯マン』だったんだぜ!」

高橋が笑って言う。教室中がどっと笑い声に包まれた。

「わー懐かしい!そうだったそうだった!あの子昔歯ボロボロだったもんねー」

三矢と幼稚園が同じだったらしい女子が笑うと、

「あのアダ名俺がつけたんだよな、自分もかなり虫歯あったくせに、棚上げってやつ?」

と、背の高い男子が笑って言う。霧島はそんな生徒たちが気に食わなかった。自分だけが知っているはずの三矢の虫歯について、少しでも生徒たちが知っているだなんて、思いたくなかった。お気に入りのおもちゃを奪われた子供のような心境だ。霧島は少し拗ねたように

「あらあ、仮に三矢くんの今日行ってる病院が歯医者さんだとして、みんな三矢くんのこと言えるのかしら?一昨日検診にいらした校医の小野坂先生、このクラスはひどい虫歯の子が多いってがっかりしてらしたわよ?高校受験の時痛くなったらどうするのって、心配なさってたわ!」

と生徒たちに言い放つ。生徒たちの顔がやや曇って、笑い声も引き攣っていく。

このクラスにひどい虫歯の生徒が多いのは事実であったし、それについて小野坂が受験時に痛み出したらと心配していたのも本当だ。しかし、三矢雅之ほどひどい虫歯を持つ生徒はいない。これは自分と小野坂と、三矢本人だけの秘密だ。霧島は今まさに治療を受けているであろう三矢雅之の泣き叫ぶ姿を想像して、また悦に入った。

Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/04/12 (Thu) 15:22:41

「うん、右下の糸切り歯は少し中で虫歯になってるけど、そこから左の二番目の奥歯までは問題ないね。」

 レントゲンを撮り終え、小野坂は雅之の歯についてパソコン画面にレントゲン画像を映し、彼と母親に解説する。

「……古い銀歯の中、やっぱり悪くなっちゃってるな。抜かないとダメかな」

小野坂の宣告を受け、先ほど沢山泣いたとは思えないほど、雅之は冷静にレントゲン画像を見ていた。

「やっぱり、抜く……?」

ぼそぼそと、雅之は言う。

「うん、根っこがもうダメになってきてるから……でも、周りの虫歯を治してしまってからにしよう。歯を抜いた後の傷に、黴菌が入ると良くないからね」 

と小野坂は返した。雅之は両目にうっすらと涙を浮かべながらも、しっかりとレントゲンを見つめた。

「これから全部治すのに、最低でも半年はかかるし、高校受験と重なっちゃうかな。でも頑張ろう」

小野坂は優しい目で雅之を見つめる。

「……先生」

小さな声で、雅之は小野坂に問う。

「あの、今日、前歯……治してもらえませ、んか……」

雅之は少し顔を赤らめて、かすれた声を喉から絞り出す。

「……少し前に前歯も欠けてきちゃって、恥ずかしくって、上手く喋れなく、なってきちゃったんです……。今は、友達にバレたら、とか考えて、みんなのこと、無視みたいに……なっちゃって」

雅之はまた、涙をポロポロと流した。小野坂は

「君がそう望むなら、今治療してあげるよ。でも大丈夫かい?慣れるまで無理強いはしないよ」

と柔らかく言う。雅之は

「お願い、します……。保健室の時、みたいにワンワン泣いちゃうかも知れないけど、前歯綺麗にしたいです……」

と耳まで真っ赤にして俯きながら言った。小野坂は優しく笑って、

「三矢くん、ほら!」

とマスクを外し、口を開けて見せる。

「あ……!」

雅之は驚く。小野坂の奥歯は、小臼歯こそセラミッククラウンで健全歯のように見せてはいるが、大臼歯はすべてゴールドクラウンである。雅之の母も「まあ」と声を漏らした。

「僕も子供の時から歯が悪くてね、白い歯も全部被せものだよ。虫歯で苦しむ患者さんの気持ちはどの歯医者よりわかるつもりだ。だからこそ、君にちゃんと治療を受けて欲しかったんだよ」

そう言って小野坂はマスクを着け直した。

「大丈夫だよ、三矢くん。痛かったら泣いたっていい。虫歯の治療って厄介で、麻酔をしても痛いときがあるけど、それだけに大の大人が泣いてしまうことも日常茶飯事さ。僕自身歯科医になってからも大学の時の先生や友達に治してもらってたけど、痛いときは震えたり声上げたりするし、僕が治療する患者さんにも中高年のオジサンなのに泣いちゃう人もいる。でも歯が治ったら快適に毎日を送れるんだよ」


小野坂の言葉とその説得力に、雅之は目をパチクリさせ

「……本当に?大人でも、泣く人、いるんですか……?」

と言う。

「本当さ。じゃあ、前歯の治療、するかい?」

小野坂は真剣な眼差しを雅之に向けた。

「はい……!」

雅之が恐怖を少しであるが克服した様子を見て、母親が安堵のため息を漏らした。

「じゃあ、始めるよ」

ユニットの背もたれが倒され、衛生士が雅之の眼もとにタオルをかぶせる。アングルワイダーを口に装着する際、雅之は体を恐怖に震わせたが、小野坂が

「大丈夫だよ、痛かったら左手を上げて」

と声をかけて安心させる。麻酔が薄桃色の歯茎に注射され、雅之は両手をグっと握る。衛生士がバキュームを構えると、小野坂の持つタービンの先端が、雅之の黒く欠けたC1の右上1番に当たる。あのおぞましい音が響き、雅之は

「ああ……ア~っ、んあ~!」

と叫び声をあげた。前歯から脳髄まで、鋭い痛みと麻酔のしびれが同時に響く。目隠しのタオルはあっという間に涙でぐしょ濡れになる。

「痛い?大丈夫かな?もう少しだから!」

ガーっと、機械の音がうるさく鳴り響いたと思うと、

「うがいどうぞ」

と衛生士の声がして、背もたれが起こされる。前歯のあたりがスースーと空いた感じがして、うがいの水が沁みて痛む。

「右の悪いところが取れたね。じゃあ次は左だよ」

背もたれが再び倒され、目元に新しいタオルが置かれると、C2の左上1番の治療が始まった。タービンの甲高い音とバキュームの曇った音が響くと、雅之の前歯に激痛が走った。

「んアーっ!ひやえ、ひゃえおお!(痛い、痛いよ!)」


雅之は左手を高く上げる

「はい、もう少し麻酔しようね」

小野坂が麻酔を追加し、切削を続けた

「あ!ああああ!あ、……ひゃあ!」

目隠しタオルを涙に濡らしながら雅之は痛みに耐えた。

「はい、うがいして」

うがいをしながら舌で前歯を触ると、雅之は

―こんなに減っちゃって、本当に綺麗になるのかな……?
と不安になった。

「じゃ、プラスチック詰めるよ」

小野坂はうがいの終わった雅之の口にワイダーを嵌め直し、削られてすっかり小さくなった前歯に充填機でレジンを注いでいく。紫外線を当てて硬化させ、研磨を終えるとワイダーを外してうがいをさせた。

「はい、できたよ」

と雅之に手鏡を差し出す。鏡に映った前歯を見て、雅之は目を丸くする

「……これが、僕の前歯?」

 未処置の2番は相変わらず茶色いままであるが、黒く欠けてボロボロだった門歯が、すっかり元通りの白い歯に戻っていた。雅之は虫歯の乳歯が抜けて白い永久歯が生えてきた時の嬉しさを思い出していた。

「うっ……」

雅之は感動で涙を流し、

「先生、昨日の保健室でのこと……本当にごめんなさい、ありがとう……ございました」

 と頭を下げた。

「おいおい、治療はまだまだこれからなんだよ」

母親と小野坂は笑った。

 この日は痛み止めと抗生物質を処方してもらい、三日服用したのちに右下6番の治療をしようということに決まった。前歯の修復に安心し、薬の効果で耐えがたい歯の痛みから解放された雅之は、昼の間中ぐっすり眠った。三矢雅之にとって久方ぶりの安眠であった。

 雅之が眠っている間、母親は雅之がちゃんと治療を受けることができたことに安心しながら、小野坂から告げられた次男・翔太の口腔状態について腹を立てた。

―中学生、それも一年生なのに歯周病の気があるですって?恥ずかしい!

母親は固定電話の受話器を上げて、中学校に電話をかける。

「……一年生の三矢翔太の母親です……はい、……おばあちゃんの具合が悪いので、今日は帰ってくるように言ってもらえませんでしょうか……」

母親の眼は血走っていた。

Re: Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - みら

2018/04/19 (Thu) 00:24:36

「中学生男子」書いた者です。
続き、書いてくれてありがとうございます!(//∇//)
萌えました⁄(⁄ ⁄•⁄ω⁄•⁄ ⁄)⁄
楽しみにしています!

Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/04/19 (Thu) 20:56:42

みらさん、こちらこそ、三矢くんという萌えキャラを生み出してくれてありがとうございます!

三矢くんの虫歯が治るまで書いて完結させるので楽しみにしてください(^^)

PS.みらさんバージョンの続きもよみたいです♪

Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/04/29 (Sun) 20:16:41

「三矢、お母さんから電話があってな、おばあさんの具合が悪いから帰って来いということだ」

担任の言葉に、三矢翔太は怪訝な顔をした。三矢兄弟の祖母は父方母方共に、兄の雅之が中学校に入る少し前に他界しているのだ。

「お母さん、深刻そうな声してたぞ、早く帰ってあげなさい!」


担任の慌てたような物言いに、翔太は急いで帰り支度をする。

―嘘ついてまで帰ってこいなんて何事だよ……。

  不思議に思っていると、あることが翔太の頭に浮かんだ。

―兄ちゃん、まさか……!

  翔太は兄にだけ告げた、検診にて見つかった生まれて初めての虫歯のことを思い出した。

  兄は今日、学校を欠席し母同伴で虫歯の治療に行っている。その時に会話の流れで自分の虫歯のことを兄が母に話してしまったのだとしたら……。

「翔太!」

  帰宅した翔太を待っていたのは、案の定母親のビンタだった。

「今日校医の小野坂先生の診療所でお兄ちゃんを診てもらったけど、あなたも歯周病の気があるって聞かされたわ!恥ずかしい!……お兄ちゃんは歯が弱くて歯磨きをちゃんとしたうえでの虫歯なのに、あなたときたら!歯並びも歯の質もいいのに歯磨きできてないから虫歯と歯周病だって言われたわよ!なんて恥ずかしいの!」


  母の叱責に翔太の頭に血が昇り、翔太は子供部屋に駆けていく。

「待ちなさい!お兄ちゃん今寝てるのよ!」
 
  母親の声も無視して、翔太は二段ベッドの上段で寝ている兄の顔を叩いた。いきなりのビンタに、雅之はなにごとかと飛び起きる。

「兄ちゃんの馬鹿!お母さんには言わないでって言ったじゃんか!」

  弟の怒声に、雅之は目をパチクリさせて困惑する

「え?何のこと?……ん!」

  薬の効果で静まっていた歯の痛みがビンタの刺激によってじわじわと蘇り、雅之は頬をギュっと抑えた。

「ホラ!自分だって虫歯だらけのくせに!」

  涙声で喚く翔太に母親は慌てて駆け寄る。

「違うの!お兄ちゃんは関係ありません、歯医者さんに聞いたのよ!」

  母の言葉に、雅之は

―ああ、歯科検診のこと小野坂先生がお母さんに言ったのか。

  と事態を飲み込んだ。

「翔太、小野坂先生は熱心で優しい歯医者さんなんだよ、何年も虫歯を放っておいた僕を気にかけてくれて、小学校から検診サボってた僕のためにわざわざ学校まで来てくれたんだ。だから、翔太のことも心配してくださったんだよ……」

  雅之が慌てて二段ベッドから降りて翔太に言うと、母親も

「そうよ、小野坂先生はいい歯医者さんよ。明後日もお兄ちゃん治療だから、一緒に治療してもらうからね!」

  と言い、一息おいて、

「今日からお母さんが翔太の歯磨きをします!」

と叫ぶように言った。


「はあ?俺もう中学生なんだけど!」

  何言ってるのと困惑する翔太に、

「歯磨きなってないって言われてるんだから当然でしょ!雅くん、翔ちゃんの歯ブラシ持ってきて!」


 母のすごい剣幕に雅之は慌てて翔太の歯ブラシを持ってくる。

「歯医者さんで歯磨き指導してもらってOKもらうまで、お母さんが磨くからね!嫌なんて言ったらお小遣い抜きとサッカー部への参加禁止よ!」


 翔太は母親の宣告に「そんな……」と肩を落として、仕方なく母に従う。翔太は母の指示通り、某幼児番組のように歯ブラシを持った母の膝枕で口を開けることになった。翔太の体格は大人同然だけに、その様はあまりに滑稽である。

「まあ……」

  母は翔太の口の中を見て呆れてしまった。翔太の歯は前から見える部分だけが綺麗に磨かれ、奥のほうはまったく磨かれておらず茶色く汚れて歯石がついている。そして上下左右の7番がC2の虫歯だった。


「ちゃんと全部磨けばいいものを!」

母はそう言って右上7番の虫歯に歯ブラシを当てた。


「ぎゃあ~っ!」


  歯ブラシの刺激による痛みに、翔太は絶叫する。母の力は決して強くはなかったが、辛うじてC2であるもののもうすぐC3に届こうかという虫歯の穴に歯ブラシが当たる痛みは強烈だ。

「我慢しなさい、自分のせいよ!せっかくのお父さん譲りの丈夫な歯をこんなにして、いけない子!」


  母親は怒りと同時に哀しみも交えた声で言う。母自身も子供のころから歯は悪かった。そして夫は虫歯一つない丈夫な歯を持っていたが、学生時代に交通事故で部分入れ歯になり不便な思いをしていた。

だから子供達には歯で苦労してほしくはなかった。長男は残念ながら母親似の弱い歯で幼少時に虫歯だらけになってしまったし歯並びも悪いが、次男は丈夫な歯で生まれてきた。それゆえに次男が幼少の頃仕上げ磨きや歯科検診に熱心になったというのに、こうして成長すると歯磨きをおろそかにして虫歯を作ってしまった。母はそれが本当にやるせなかった。

Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/04/29 (Sun) 22:49:57

「三矢くん、おはよう」


三矢雅之の担任教師・霧島は昨日虫歯治療のために休んだ彼に笑いかける。

「おはようございます……」

先日保健室で醜態を晒したきまりの悪さから三矢は顔を真っ赤にして俯いた。

「みんなには『病院』で休んだって言ってあるから。」

フフッと笑って言う霧島は

「ねえ、ちょっと相談室まで来て?」

と三矢に言う。三矢は怪訝な顔をしながらも霧島の言う通り一緒に相談室へ入ってゆく。

「ねえ、歯、治療したんでしょう?見せてくれない?」


霧島は目を輝かせて少女のような表情を見せる。三矢はそんな霧島の表情に、何か禍々しいものを感じた。


「ね、担任として健康状態を知りたいのよ、見せてよ」


霧島の紅潮した顔にゾッとしつつも、三矢は恐る恐る。

「……前歯を、治しました……」


と、昨日レジン治療した1番を指さして見せる。


「まあ!綺麗になったじゃない。痛かった?」

嬉しそうに言う霧島を不快に思いながらも、


「……ちょっと痛かったです、けども、綺麗になって安心しました。」

と、素直に治療の感想を言った。


「……ねえ三矢くん、作文を書いてくれない?」

「え?」

霧島の言葉に、三矢はまた怪訝な表情を見せた。


「あしながおじさんのお話知ってる?勉強を頑張る女の子が後見人のおじさんにお手紙書くの。先生ね、歯の治療を頑張る三矢くんのあしながお姉さんになりたいのよ!どんな歯の治療を受けてきたのか、作文で知らせてほしいの!」


やたらと興奮して唾を飛ばしながら言う霧島に恐怖を感じながら、三矢は


―それを言うならあしなが『おばさん』じゃないんですか、先生。


と残酷な言葉を胸中で呟いた。

―っていうかそれなら治療費を先生が負担しないとおかしくないですか?

と心の中でツッコむ。


「……わかりました」


三矢は渋々OKした。国語教師の霧島が作文をかけと言うのなら、宿題だと思って受け入れよう。どのみち今年は受験生だし、国語の成績や内申点も上げられるかもしれない。そう思って歯科治療作文を霧島に提出することにした。


「国語の宿題提出するとき、一緒にノートに挟んでね!」


明るく笑う霧島に、三矢は


―……変態ババアが!


と胸中で悪態をついた。

Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/04/30 (Mon) 09:51:43

「今日は弟くんも一緒だね。こっちでは初めまして、小野坂です」

土曜の朝、小野坂は三矢兄弟とその母親をにこやかに迎えた。今朝の三矢家はちょっとした騒動だった。

「なんで中学生にもなって歯医者に親同伴なんだよ!」

と翔太が怒っていたのだ。

「逃げないようによ!」

と母が答え翔太は余計に怒ってしまった。そんな母子を見て父親は

「兄弟そろってひどい虫歯とは……しかも翔太は歯周病まであるそうじゃないか!ちゃんと母さんと行ってきなさい!そして先生に頼んで診断書みたいなの書いてもらって、父さんに見せなさい」


と怒鳴った。厳しい父親の言葉に、翔太は渋々母同伴を承諾したものの、診療所に着いてもふてくされていた。

「まずはお兄さんからね、座って。翔太くんも座ってね」

そう言われて雅之は少々モジモジしながらもユニットに腰掛ける。翔太は肩を震わせて、ユニットの周りをうろうろしていた。

―翔太、怖いのか?……僕もすっごく怖いけど、翔太は小さいとき「歯医者さんで全然泣かなかった!」って自慢してたのに。

『昔兄ちゃんが虫歯の治療怖がって、家に帰っても泣いてたから、怖くて……』

という数日前の翔太の言葉が雅之の脳内に響く。

―怖いのは僕のせいだな、ごめんよ。


翔太は俯いて、うっすらと涙を浮かべていた。そんな翔太に、雅之は心からすまないと思った。


「歯医者さん、初めてですか?」


そう言って診察室に恰幅の良い、愛嬌のある女性が入ってきた。小野坂の妻の昌子で、彼女も歯科医である。先日雅之が治療に来た日は学会に行っていて診療所にはいなかったのだ。

「小さいとき近所に検診に行って以来よね、翔ちゃん。もう中学生なんだから自分で言いなさい。ほら、座って!」


母親が怒鳴るように言うと、翔太は哀しそうな顔でユニットに腰掛けた。

「弟くんはあっちの女医さんが診るからね。じゃあ三矢くん、あーんして」

小野坂は三矢の口を開けさせ、手鏡を持たせる。

「今日はここの、六歳臼歯の治療をするね」

そう言って手鏡を持った雅之に、指で歯を指して見せた。


「……ちょっと、叩いてみていいかな?神経がやられてるかどうかのチェックなんだけど」

そう言って手鏡を置かせると、小野坂はミラーを雅之の口に入れる。

「はい……」

恐る恐る口をより一層大きく開けると、ミラーの柄が大きな虫歯の右下6番に当たる

「ああっ!」

激痛が走り、思わず雅之は涙声を上げる。

「やっぱり神経取らなくちゃね。削った後、神経を抜いて、お薬を入れるからね。前回の治療でわかったけど、三矢くんは痛みに弱くて麻酔も効きづらい体質みたいだね、少々辛いかもしれないけど、頑張ろう!」


小野坂は雅之をしっかり見つめて、握手した。

「でね、ウォーミングアップに軽い虫歯の治療もしようと思うんだけど、二番目の前歯削ってもいいかな?」

小野坂は雅之の、八重歯の重なった側切歯をそっとミラーで触れる。


「ここ、茶色になってるけど神経にダメージはないみたいだから。ほら、痛くないでしょ?」


小野坂はコツコツと2番を叩く。確かにその歯は冷たいものが沁みるが、打診痛はしなかった。

「神経を残して削って、残った歯を土台にして歯を被せる治療をするね」

雅之は恐怖を感じつつも、少し嬉しかった。前歯の虫歯が気になって口を開けられなかった雅之としては、前歯が治ってしまうのはうれしい。

「この八重歯になってる糸切り歯の虫歯も治そうね」

背もたれが倒れ、衛生士がタオルを雅之の目元にかけると小野坂はエキスカベーターで犬歯の黒くなった部分を削り取る。黒ずんでいた歯茎との境目が白くなった。

「あんまり麻酔打つと体に悪いからこの歯は麻酔なしね。こっちはすぐ済むからね」

タービンが雅之の2番に当たる。耐え難いあの音と痛みに雅之は震え涙交じりの悲鳴を上げた。

「あ~!んあ!ア!」

バキュームのくぐもった音が、雅之の唾液と叫び声を吸い取ってゆく。

「重なってるから少し大変だけど、あんまり時間かからないから!」

キイキイとした機械音と、雅之の泣き声が響き、茶色かった歯が白い棒のようになっていった。

「ハイ、もう片方!」

反対側で同じ作業が繰り返され、小野坂は背もたれを起こして鏡を見せた。

―棒みたいになっちゃった……

雅之が呆然としていると、

「あとで仮の歯着けてあげるから大丈夫だよ」

と、雅之の心を見透かしたかのように小野坂は言った。

「じゃあ、いよいよ奥歯だね。麻酔して削って、もう一回神経に直接麻酔をして神経を抜くから。一瞬激痛が走るけど、痛みに弱い君には一番いい麻酔の方法だよ」


神経に直接、という言葉に雅之の恐怖は増大したが、先日出された薬のおかげで歯痛のない快適さを味わった雅之は


―それで歯痛とおさらばできるなら


と、何とか我慢して口を開ける。右下に伝達麻酔が打たれ、痛みに雅之は少しだけ身をよじった。

「じゃ、麻酔効くまで五分くらい休憩ね、うがいして」

と小野坂は背もたれを起こした。

Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/05/01 (Tue) 21:52:39

「翔太くん、初めまして」

昌子が翔太に明るく挨拶すると、翔太は

「どうも……」

と俯いて言う。

「あーんして」

背もたれが倒され翔太の目にタオルがかけられた。

「ああー、一番奥の歯が虫歯になっちゃってるわねえ。食べたり飲んだりするときに痛いんじゃない?歯茎も悪いみたいだし……せっかく綺麗な歯並びしてるんだから、もっと大事にしないと!」

少々悲しそうに昌子が言うと、翔太は

「……俺シソーノーローになっちゃうんですか?」

とこれまた悲しそうに言う。

先日の歯科検診で翔太は小野坂に


『上下とも6番から6番まで斜線、7番がC2。……君、歯磨きがなってないよ。生えたばっかりの一番奥の歯4本ともみんな虫歯だし、失礼だけどお口もちょっと臭うなあ、少し歯茎が悪いし、歯石もついてるね。このままだとホラ、テレビのCMで歯槽膿漏ってやってるでしょ、あれになっちゃうよ!ちゃんと歯医者さんに行ってね』


と言われ、クラスメイトに笑われてしまってとても恥ずかしい思いをした。

「このまま歯磨きを怠ったらね。これから歯石を取ってちゃんと歯磨きすれば大丈夫よ。虫歯の治療して、それから衛生士さんに歯磨きを習ってね」

昌子は諭すように言った。

「じゃあ、レントゲン撮りましょうか。遊佐さん、お願い。」

昌子は衛生士の遊佐に指示し、翔太をレントゲン室に案内させる。

翔太の初めての歯科レントゲンは恐怖そのものだった。禍々しいヘッドギアのような装置に顔を突っ込み口に何かを噛まされ、電子音と機械音が頭の周りをぐるぐると廻る。患者の恐怖を和らげるためなのか撮影中ずっと「エリーゼのために」の電子オルゴールが鳴っているのだが、翔太にはそれがかえって怖かった。

レントゲン検査の結果、翔太の虫歯は上下左右の7番のみで、他の場所には初期虫歯ひとつないようであった。虫歯の治療は一ヶ月前後で済むが、歯周病治療に少々時間がかかるかもしれないとのことである。

「まずは右上の虫歯を治すからね」

右上といえば、母に歯ブラシを当てられて痛かったところだ。翔太は震えあがる。

「あなたまだ十二歳でしょ?子供は麻酔あまり使わないほうがいいのよ、体に悪いからねえ。まずは麻酔なしでやってみるから。痛かったら左手を上げてね、その時に少しだけ麻酔するから」

―麻酔なし!

翔太は戦慄する。今頃サッカー部の仲間たちは、大好きなサッカーを試合に向けて頑張っているのだろう。しかし自分はこうして歯科治療の恐怖に怯えている。

 昨日帰り際に顧問の体育教師に『虫歯の治療があるので明日の練習には出られません……』と告げると、

『なんだ三矢、布団の中でチョコレートでも食べてたのか?しょうがないなあ、図体でかくても去年までランドセルだったんだからなあ』

と顧問に笑われ、コーチやほかの部員にも笑われた。終いには他の一年生から

『せんせー、翔太はこのままだとシソーノーローになるって歯科検診の歯医者に言われてましたー!アレって口が臭いオヤジの病気ですよねー』

と大声で言われとても恥ずかしい思いをした。『しっかり治して来いよ』と労いの言葉ももらったが、とにかく情けない気持ちになり、

―ちゃんと歯磨きしてりゃよかった、部活帰りにコーラ飲んだりしなきゃよかった。

と後悔した。

「さあ、大きくお口を開けてね、あ~ん!」

昌子の持つタービンの恐ろしい音が響き、翔太は恐怖に震えながら恐る恐る口を開ける。

「もっとよ!一番奥なんだからね。大丈夫、ちょっと痛いだけよー」

基本的に小野坂夫妻は患者、特に子供に『怖くない』とは言っても『痛くない』とは言わない主義である。『なるべく痛くないよう努める』とは言っても、『痛くない』と断言はしないよう心掛けている。

 全身麻酔でもしない限り歯科治療にある程度の痛みはつきものであると、夫婦そろって歯の悪い歯科医であるこの二人はよくわかっているし、『痛くない』と言って結果的に騙したことになってしまったら幼い患者が酷い歯科恐怖症になることだってありうる。故に『少し痛いけど泣いたっていいから我慢しなさい。ちょっと我慢すれば虫歯とはさよならできるのだから』というスタンスで患者に接している。

「さあ、痛いの我慢すれば虫歯とさよならできて、ごはんが美味しくなるわよ~」

翔太の右上7番に、タービンが直撃する。あのキイキイと耳障りな不協和音と激痛が翔太の脳髄を支配した。

「あんぎゃあああああああ!」

「ほら、動かない!危ないよー」

昌子は真剣な顔で治療に当たる。

「ああ!ああ!ア!……うわぁ~ん!」

翔太は泣きながら左手を上げた。

「あ~ん!ああ~ん!わあああああああん!」

鼻水まで垂らして大きな声で泣きわめく翔太に、昌子は

「しょうがないわね、麻酔しましょうか。これからもっと削らなきゃいけないんだから」

そう言って注射器を取り出した。

Re: 旧投稿コーナーの「中学生男子」が好きすぎて勝手に続きを書いてみた - 押磐ウツケ

2018/06/28 (Thu) 20:46:20

「ひっく……えっく……」

翔太は嗚咽を漏らしながら、目隠しタオルを取り換えに来た衛生士の遊佐の顔をじっと見た。涙を目にたっぷりとためて、助けを乞うような表情を見せる。

「大丈夫よ、これから麻酔をするからね」

そう遊佐が言って鼻水を拭いてやり、新しいタオルを被せると、昌子は

「はい、注射するからね、あーんしてね」

と翔太に声をかける。翔太は泣きながらゆっくりと口を開け、昌子は麻酔を注射する。

「あっ……」

麻酔注射の痛みに翔太は涙声を上げて左手も上げる。

「はい、じゃあまた削るからねー」

と昌子が言って、タービンの音が再び鳴り響いた。

―昌子、怒ってるな。


雅之の治療に取り掛かろうとしている小野坂は昌子の声を聴きその気持ちを察した。

―まあ、気持ちはわかるぜ、あんなに丈夫で綺麗に並んだ歯を虫歯にできる贅沢ぶりが我慢ならないんだよな、うん。でもそれを表に出しちゃあだめだぞ、相手はまだ子供だし……。


妻の態度ににじみ出る怒りを察しながら、


「三矢くん、どう?痛い?」


と、雅之の歯茎を探針でつつく。


「いえ……」

雅之が答えると

「じゃあ、削ろうか」


と、雅之にバイトブロックを噛ませる。雅之は恐怖に震えながらも、小野坂を信頼して両手をぐっと組んだ。タービンの甲高い音と同時にボロボロと虫歯が崩れてゆく。厳しい顔をした衛生士・安元が構えるバキュームが雅之の歯のかけらをどんどん吸っていった。

「ああっ……ああああ!」

 抜髄を要するほど大きな虫歯は、麻酔をしていても治療は痛いものだ。雅之は怯え泣き叫び、左手を一生懸命上げる。

「もう少しで神経が出てくるからね、我慢してね」


小野坂はタービンを持つ手に力を入れた。

「ぎゃあああ!」

雅之が絶叫すると同時に、雅之の右下6番は歯質が崩れ露髄した。


「じゃあ、三矢くん!神経に注射するから……遊佐さん、ちょっとこっちお願い!……ちょっとお姉さんたちに体抑えてもらうけど、あくまで君の安全のためであって、意地悪じゃないからね」


 小野坂は翔太のユニットについていた遊佐を呼び、安元とふたりで雅之の足と胴体を抑えさせた。

「んぎゃあああ~!」

麻酔の針が歯髄に直に刺され、激痛を感じた雅之は両足に力を入れる。ふたりの衛生士に抑えられ身動きが取れないものの、精いっぱい力を入れた。


「ハイ、痛かったね、もう少しで効いてくるからねー」

 そんな小野坂の優しい言葉と同時に、弟の絶叫が隣のユニットから響いてくる。雅之は小学校時代に受けた辛い治療をぼんやりと思い出していた。


 新潟での一軒の後、東京に帰ってから近所の歯科でも治療を受けた。新潟からの紹介状を見た当時の担当医は

『あー……神経抜いちゃったか。じゃあ、根っこの掃除して銀歯にするから』

 と面倒くさそうに言って、恐怖に泣き叫ぶ雅之を拘束して根管治療をした。この歯科医もまた短気で、痛みで泣く雅之に

『泣くんじゃない!』

と怒鳴りつけ、付き添っていた母親も

『自業自得なんだからね!あなたが虫歯を隠して放っておいたのがいけないのよ!』


と怒鳴った。

 小野坂の持つクレンザーが歯根に挿入されると、恐怖の記憶で雅之はぼろぼろと涙を流し嗚咽を漏らす。優しい遊佐と厳しい安元とが

「大丈夫よ、麻酔効いてるはずだから!」

「ホラ泣かない!男の子でしょ?中学生でしょ?」

と声をかける。


「安元さん、そんなに厳しく言わないで……三矢くん、大丈夫だよー泣いたっていいからねえ……ああ、もう少しで取れるから……取れた!」


小野坂が安堵のため息を漏らす。

「神経が大分ダメになってたね。痛かったろう?もう大丈夫だから。根っこの掃除してお薬入れるよ」


 小野坂はクレンザーをリーマーに持ち替えて、雅之の歯根に抜き差しする。雅之は己を苛んでいた歯の痛みの原因が一つ無くなったことに安堵して、泣くことをやめた。リーマーが抜き差しされるたびに顎骨に響くような痛みが走るが、ひじ掛けを握って耐えた。

名前
件名
メッセージ
画像
メールアドレス
URL
文字色
編集/削除キー (半角英数字のみで4~8文字)
プレビューする (投稿前に、内容をプレビューして確認できます)

Copyright © 1999- FC2, inc All Rights Reserved.